理事長・副理事長挨拶
持続可能な健康危機管理体制の構築に向けて
―科学の力で、安心できる社会を実現する―
2026年4月1日
国立健康危機管理研究機構 JIHS(ジース)理事長
國土 典宏
2025年4月1日、わが国の健康危機管理体制と研究開発機能を抜本的に強化するという歴史的な使命を担い、国立感染症研究所(NIID)と国立国際医療研究センター(NCGM)の統合によって、国立健康危機管理研究機構(Japan Institute for Health Security:JIHS)が設立されました。
私たちは、新型コロナウイルス感染症への対応から得た数多くの教訓と反省に基づき、平時から有事に至るまで、一貫して国民の皆さまの生命と健康を守り抜くための新たな「知の拠点」として歩みを続けてまいります。
130余年の歴史が交わる「感染症総合サイエンスセンター」
本機構の設立は、決して唐突に成されたものではありません。その精神的源流は、130年以上前のベルリンでの二人の医学者の邂逅にまで遡ります。一人は、世界的な微生物学者であり破傷風菌の純粋培養や血清療法を確立した北里柴三郎、もう一人は、軍医総監として公衆衛生に貢献した文豪・森林太郎(鴎外)です。それぞれ国立感染症研究所と国立国際医療研究センターに深いゆかりを持つ二人が、かつてコッホのもとで共に学んだ歴史が、今、JIHSという一つの組織として結実しました。
この1年間、私たちは既存の膨大な業務を継続しながら、新たな組織としての基盤整備を進めてまいりました。設立2年目を迎え、この長きにわたる両組織の歴史と実績、そして培われてきた組織文化を互いに尊重しつつ、それらを真に融合させることで、「1+1」を2より大きくするシナジー効果の発揮を目指し、基礎研究、臨床医学、疫学、公衆衛生、さらには社会科学にわたるすべての領域を統合的に推進する「感染症総合サイエンスセンター」として、世界トップレベルの感染症対策を牽引していくことが私たちのビジョンです。
4つの機能
JIHSは、多様な専門家集団と充実した施設・機能を備え、次の4つの機能を中核として活動を展開しています。
1. 情報収集・分析・リスク評価機能:サーベイランスや情報の収集・分析を迅速に行い、国内外の関係機関と連携する「感染症インテリジェンスのハブ」として機能します。科学的知見に基づき、政府への提言や国民への分かりやすい情報発信を担います。
2. 研究・開発機能:世界トップレベルの研究体制を確保し、基礎研究から臨床試験までを戦略的に進めます。平時よりシーズ開発を推進し、有事の際には国内外のネットワークを活用した迅速な研究開発の拠点となります。
3. 臨床機能:高度な総合病院機能(国立国際医療センターおよび国立国府台医療センター)を維持・発展させます。健康危機時においても、あらゆる病態に対応した最先端の医療を提供し続けるための強固な臨床能力を堅持します。
4. 人材育成・国際協力機能:国立看護大学校や実地疫学専門家養成コース(FETP)、感染症危機管理リーダーシップ研修(IDCL)などを通じ、医療従事者や研究者、実地疫学の専門家など多種多様なプロフェッショナルを育成します。また、グローバルヘルスの向上に寄与する国際協力を推進します。
レジリエントな社会の実現にむけて
現在、新宿区戸山の本部キャンパスを中心に、二つの病院、二つの研究所、臨床研究センター、国際医療協力局、看護大学校の7つの事業部門とDMAT事務局が有機的に連携し、感染症をはじめとするあらゆる健康危機に対応しうる柔軟かつ強靱な体制を構築しています。
私たちのミッションは、「感染症その他の疾患に関する調査・研究の実施や医療の提供を通じて、国民が安心できる社会の実現に貢献する」ことです。この重い責任を全職員が共有し、たゆまぬ努力を続けてまいります。国民の皆さま、そして関係諸機関の皆さまにおかれましては、本機構の活動に対し、今後とも変わらぬご支援とご協力を賜りますよう、心よりお願い申し上げます。
より統合的で機動力の高い健康危機対応体制の確立に向けて
― JIHS発足2年目を迎えて ―
2026年4月1日
国立健康危機管理研究機構JIHS(ジース)副理事長
脇田 隆字
国立健康危機管理研究機構(JIHS)は、2025年4月の発足から1年を迎えました。この間、NIID国立感染症研究所とNCGM国立国際医療研究センターの統合により、研究、臨床、疫学、公衆衛生、人材育成、国際協力といった多様な機能を一体として運用する新たな体制の構築に取り組んできました。
発足初年度は、組織としての基盤を整えると同時に、異なる文化や専門性を持つ組織同士が互いを理解し合う重要な時間であったと感じています。2年目を迎え、これらの積み重ねを礎に、より実効性の高い健康危機対応体制へと着実に発展させていきたいと思います。
JIHSの強みは、基礎研究から臨床、サーベイランス、公衆衛生対応、さらには国際展開に至るまでを一体として担いうる点にあります。この総合性を真に活かすためには、それぞれの機能を高めるだけでなく、分野を越えて結びつけていくことが重要です。
科学的な研究成果を臨床や政策へ迅速に還元し、現場で得られた知見を再び研究へとつなぐ循環を確立すること、またサーベイランス情報を意思決定に的確に反映させることにより、平時から有事まで切れ目のない対応力を高めていきます。
とりわけ、研究開発機能の強化については、私自身これまで感染症研究に携わってきた立場からも、強い課題意識を持っています。基礎研究の成果を臨床や医薬品開発へとつなげることの難しさは、これまでの経験の中でも繰り返し感じてきたところです。JIHSにおいては、この壁を乗り越え、基礎研究から医薬品開発までを一体として進める体制を実現していかなければなりません。
基礎研究から生まれたシーズを、できる限り速やかに診断薬、治療薬、ワクチンとして形にし、必要とされる現場へ届ける。そのために、臨床部門や企業との連携をこれまで以上に進め、実用化を見据えた研究開発に取り組んでいきたいと考えています。
また、平時からの国民への情報発信の重要性も、改めて強調したいです。専門的な内容であっても、できるだけ分かりやすく、正確に伝え続けることが、社会全体の理解につながります。こうした積み重ねがあってこそ、有事においても必要な情報が受け入れられ、適切な行動につながるものと考えています。
一旦、感染症等の健康危機が発生した際には、状況の変化に応じた科学的知見に基づき、必要な情報と具体的な備えを迅速に示していくことが求められますが、平時からの信頼関係が十分でなければ、その情報が十分に伝わらない可能性があります。
その意味でも、日常的な情報発信とともに、国民との双方向のコミュニケーションを大切にし、理解と信頼を着実に積み重ねていくことが重要です。
また、こうした取り組みを支えるためには、組織内における分野間の壁を低くし、横断的な連携を自然に行える環境を整えていく必要があります。それぞれの専門性が結びつくことで、より実践的で機動的な対応が可能になります。
さらに、JIHSの役割は組織内にとどまるものではありません。地方衛生研究所、医療機関、大学、厚労省や自治体などの行政機関など、国内の関係機関との協働を深めるとともに、国際的なネットワークの中でもその機能を発揮していくことが求められます。これらのつながりを実効的に活かしながら、健康危機への備えを強化していきます。
JIHSは、感染症をはじめとするさまざまな健康危機に対応する中核機関としての役割を担っていきます。発足からの1年で得られた経験を踏まえ、2年目は統合の成果を具体的な力として発揮していく段階です。
予研創設時に描かれた「総合的な医学研究所」という理念を、現代の形で実現していくとともに、世界トップレベルの感染症対策を牽引する存在となることを目指し、社会に安心を届けることのできる体制の確立に向けて、職員のみなさんとともに、一歩一歩、着実に取り組んでいく所存です。


